2014/03/08
ゴトーのツィーターの下に敷いてあった古本を読んでいて、昭和60年の無線と実験のなかにアンプ製作の考え方についてフィデリックス社の中川さんが当時投稿した記事を見つけました。
抜粋して書いてみましたので読んでみてください。
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私は音楽のすばらしさをそのまま再現しようとする原音に忠実なアンプということでずっと研究している。
アンプの音質テストで最もシビアな方法は、例えばゲイン20㏈のアンプを設計するなら -20㏈のアッテネーターと組合わせてゲインを0㏈として、これ全体をジャンプしても、元の音質と差のないものほど理想的と判断する方法である。ところがこれは実に難しい。
アンプを設計する人は、自分の設計したアンプの音に有頂天になる前に、このテストをしてみると理想アンプに比べて、自分のアンプがどんな癖をもっているかよく認識できる。
長年のこういった研究からわかったことは、増幅素子として真空管やFET等の電圧増幅素子は音楽の持っている肌理の細かい部分の表現力ということで、とにかく優れている。
しかし電流増幅素子であるバイポーラトランジスターはこれらと比べると、どうしても高域が歪っぽくて大雑把になってしまう。
電流というのは電子という粒子からできているので本質的にデジタル量ともいえる。
一方の電圧という情報は電子から、アンドロメダ星雲まで離れても、微少な電圧を発生するアナログ量である。
電子の粒という小さいものまで言い出すとは、大袈裟と思うかもしれないが、今のアンプのノイズは殆ど何らかの熱雑音であり、これは電子が熱エネルギーによって飛び跳ねている音である。
デジタルの量子化ノイズほどでなくても無視できない大きさではある。
こんな事が電圧増幅素子の方が優れている原因ではないかと私は思っている。
こういった事から言えば、真空管は優れているのだけれども、FETで言えばNチャンネル相当品しか この世に存在しない。
というのは入力(グリッドかカソード)よりも出力(プレート)のDCレベルが必ず高いため、直結すると特別な事をしない限り出力に高圧が出てしまう。したがってカップリングコンデンサーをどこかで使う事になる。これも先に述べた原音比較法により、テストすると これを通しても低音の膨らまないカップリングコンデンサーを見つけるとなると困難である。
また片極性しかない為、電源の影響をキャンセルする回路を作りにくい。この二点から、どうしても真空管アンプは本物に近い質の高い低音、つまり、クッキリと締まって力強く音程感のよくわかる音だけは出しにくいと言える。逆に言えば甘くフックラとして柔らかい低音が好きな人にはこれがまた良いのかもしれない。
その点、FETは球のように歪感なく肌理細かい高域と、クッキリとした石の低域を併せ持った音となる。
私は球派でも石派でもなく、ずっとFET派?と自分では思っている。
中略
面白いもので、こういった原音比較法で良い結果の出るアンプというのは、凄く良いデータがでるわけでもないのが本当のところ。
むしろポイントを押さえたシンプルな回路の方が具合がよい。ただしパーツは物凄く吟味しなくてはならない。
というのは、この世にあるパーツは全て問題を持っていて、音を良くする部品というのは1個も無いからである。
だから極めて良いものを、ごく少量使うという方法が音質劣化を最小限にくい止める一番良い方法である。
Opアンプのような複雑な回路で安いパーツをふんだんに使ったものは、いくら特性が良くても、良い音は出てこないと私は思う。なぜならば計測器ではわからないほどのローレベルが人間の耳にとって非常に大切であり、これは生鮮食品のように、わずかな事で傷みやすい性質を持っているからである。
その為信号経路はなるべくシンプルにし、通過していくパーツは少ないほど良くしやすいのは、よく理解して頂けるとおもう。